ある瞬間にもっとも多くの人間に注目されるだろうことばというのは、流れ星みたいなものだ。
誰よりも先に見つけて、光る軌跡を追いかけて、適切な対応を行えば……願いが叶う。
秒ごとに画面の中は情報が入れ替わっていく。アイコンは赤に黒、青に黄色に、無断転載の写真に解像度の悪い動物の写真……情報に共通しているのは、とあるカタカナの企業名だ。
「お前だったら良かったのに」
隆文は画面に視線を落としたまま言う。
「ひっど! てか俺も飲んじゃったんですけど!」
わざとらしく、薫が胸元に掌を当てる。
「愛がなくない?」
「もともとないだろ」
「サーバー、落ちてるな」
落としたのかも、と宇宙は冷静だ。
椅子にちょこんと座る目線は、いつもより低い位置にある。
この部屋に漂ったことがない、苦しくなるような甘い匂いがして、隆文はけばけばしく輝く情報の奔流にもう一度集中しようと努めた。
「他のグループ、なんか投稿してる?」
「いくつか……有名どころは沈黙してる」
名前も聞いたことがない配信者の動画を隆文は再生する。トレンド一位。内容はわかりきっているのに。
「『【悲報】○○の飲み物を飲んだら大変なことになりました・・・』ねえ」
センスないな、と隆文は思う。薫も同じ感想を抱いていそうな表情だった。
「好みじゃないなー。やっぱ元が良くないと駄目」
加えて薫が着目しているのは、そこだ。
「せっかく女の子になったんだし、もっとさあ」
とある企業の配った飲み物を飲んだら、体が女性になりました(副作用は今のところありません)、と。説明すれば陳腐さにびっくりする。
しかも飲んだ人間すべてが、というわけでもない。
たとえば、薫は変化しなかったが、
「ねえ、この人達って戻った?」
「まだ、そのまんま」
「わー、かわいそ」
薫の脚を隆文は蹴り、同時に宇宙が脇腹を突く。
たとえば、薫は変化しなかったが、宇宙は
「いった!」
たとえば、薫は変化しなかったが、宇宙の体は女性のものに変化している。
「……連絡した?」
曖昧な聞き方を薫がするのは、それが宇宙の恋人に関する質問だからだ。
「したよ」
「どうするの」
「どうって」
宇宙が首を傾げる。いちいち弾むような動きだ。
「そりゃあ、どうですよ」
薫が指をくねらせる。宇宙が赤面する。
「なんだよ」
思わずあげた右手には、記憶よりも一回り小さくそれでもやはり傷跡が残っていて、性別が変わっても宇宙は宇宙なのだと隆文は実感した。
「で、どうしよう」
と、宇宙が真面目な口調になる。
「今の所、俺の体調は普通だけど。動画、撮る?」
その前に服をなんとかしよう、と提案したのは薫だ。
「明日届くやつ、試してみたかったんだよね」
「いうても、好きな服と着れる服がさあ……」
浮かれる薫とは対照的に宇宙は消極的だ。
「俺のサイズあるのか?」
「さあ?」
俺のサイズ、と発言してから、宇宙も戸惑っている。
「いや、俺もわかんないですけど?」
はは、と笑うと衣服の胸は上下した。細い骨格は柔らかな肉を纏っている。
「……やっぱ今日は帰ったほうがいいんでない」
隆文は息を吐き出す。
「今は元気っつても、いつどうなるかわからんわけだし。病院にも連絡、は先に入れておいた方がいい。今日会えるんだったら会っとけ」
「明日死ぬのか、俺……」
「いや、そうじゃないけど」
「やっさしいねえ!」
薫が勢いよく立ち上がる。
「じゃあ車だな」
「大袈裟な」
宇宙は納得していないようだが
「選んでもらいなよ、コトちゃん先輩にさあ……」
下着、と薫が続けると、その顔色は白くなり、それから真っ赤になった。
「あ、ああ……あああ……」
呻く宇宙を薫はにやにやして見ている。
「でしょ。あと隆文、上着貸してやれよー。俺のはライン出るから」
(そっちの方がやばくないか?)
とっさに隆文は思ったが、深く考える間もなくその疑問は思考の底に沈んでいった。
20220319
※なお、この女体化は一週間くらいで戻ります(後遺症なし!!!!)!!!!