『自撮りツーショットを失敗する』青鏑
こちらからお借りしました(http://shindanmaker.com/433599)
携帯電話の画面を、鏑木は確認した。それから隣の青八木を注視し、もう一度光る画面に視線をやった。
小さい四角の中に映るのは自分と青八木の姿だ。
気に食わない。
実に気に入らない。
保存しますか、と携帯電話が聞いてくる。
「しない」
返事をして鏑木は消去した。
「青八木さん、もっ回お願いします」
「何回撮る気だ」
「さっきのは青八木さんの目が隠れてた!」
鏑木は主張する。青八木の前髪は長く、そのため両目を覆うと表情がわからなくなる。
「だったら最初のでよかっただろ」
「あれは! 俺の顔が変でした! 嫌だあれは!」
だいたい一枚目からして、うまく撮れなかった。
失敗は続くもので、その次はうっかり目を瞑ってしまった。あれは青八木のせいだ。きらきらと反射した金髪が視界を遮った。
「おかしくなかったぞ」
「おかしいすよ! 俺はもっとイケてる」
その次も、次の次の写真の出来も鏑木には不満だ。
青八木の隣で、自分はくすぐったそうな態度だし、妙に視線が泳いでいる。まるで別人だ。
(何なんだ、これ)
青八木と並ぶことはおかしなことではない。ないのに、自転車にも乗らずに互いに無言だというだけで、心臓のあたりがむず痒くなって冷静でいられない。
「貸してみろ」
青八木に、鏑木はカメラ機能を機動させたまま、渡す。
「光が……違うか、こっちか」
青八木の腕が動く。
「……ちょっと、何で俺を撮るんですか!」
「あ、」
びっくりした青八木の様子に、この人目的忘れてるなと鏑木は心中で思った。
(青八木さん、たまに抜けてるからな)
青八木に撮影された自分も、相変わらず不安そうにしている(そして構図が決まっているので逆にむかついた)。
青八木との写真が欲しかっただけなのだが、うまくいかないものだ。
鏑木はがっかりする。ツーショットの写真が欲しい、と青八木にねだるまでは順調だったのに。
しおれた鏑木に青八木が言う。
「……得意なやつに聞きに行くか」
「はい?」
純太はうまい。青八木のことばは続く。
「見る?」
と、答えを聞く前に手嶋は自分の携帯電話を弄り始める。
「自撮りかー、馴れないと緊張するよな、あれ」
(う、わ)
教室やら、屋上やら、店を背景にした写真の群れが画面を流れていく。
(全部、手嶋さんと青八木さんだ)
どんどん写真の中で、二人の髪が短くなっていく。時間を遡及しているからだろう。
「あとこっちも」
(青八木さんの携帯)
手嶋の指が、手慣れた操作で青八木の写真フォルダを開示する。こちらも同じく、いや手嶋のデータには青八木以外の人間もいたが青八木のものには手嶋しか映っていない。
圧巻だ。
ポーズや場面は違えど、いずれの写真も手嶋と青八木だ。
「うまいすね、手嶋さん」
「まあね」
言いながらも、手嶋は写真を撮っている。
鏑木の携帯電話で。
手嶋自身と青八木のツーショット写真を。
(俺の携帯!)
「手嶋さーん、そっちすか!」
突っ込んだが、別に腹は立たなかった。手嶋と並ぶ青八木は自然だ。実に自然に、リラックスしている。
青八木と映った写真を望んだときに、鏑木の頭に浮かんだ青八木は、あの、青八木だ。
自転車に乗っていないときの、少しぼんやりしているときの青八木。
あれが欲しい。
(まあいいか)
だから青八木の写真は手に入る。鏑木は自分を納得させた。
たいして離れてもいないのに、青八木が手を振ってくる。何やってんだ、青八木さん。カシャッと乾いた音がする。
鏑木は手を振り返した。
手嶋の撮影会は長かった。後でデータ送ってくれよ、消すなよ、のことばと同時に、ようやく鏑木の元に携帯電話は戻ってきた。
「何枚あんだ、これ……」
フォルダ分けもされていない写真を鏑木は眺める。
やはり手嶋と青八木、手嶋と青八木、どこまで言っても同じ背景に同じ二人。
惰性で鏑木は指を滑らせる。コマ送りのように画面の中で青八木が動く。手を振っている。
(あれ)
写真の集合体のラストは、青八木の横顔だ。いや青八木だけではなくて。
「何だよこれ……」
鏑木は頭を抱えた。携帯電話がギリギリまで返ってこなかったのはこれか、これのせいなのか。
――最後の写真には、画面に収まる青八木と、自分が映っている。撮影時間からして返却直前に手嶋が隠し撮りしたのだろう。
青八木はごくごく自然だし、自分は、楽しそうだし、はしゃいでいる。いやそれはいいのだが。
(何、緩んだ顔してんだよ俺……)
画面の中の自分はヘラヘラしてるし、しまりがない。
その癖に青八木をじっと見ている。まるで犬のしぐさだ。
(了)
眉粉さん、ありがとうございました!
(手嶋先輩のあたりのネタは全部眉粉さん提供です)
もっと可愛いネタやシチュを活かせるように修業したいです★
目次